タイ政府が2022年6月にアジアで初めて、大麻(cannabis)を国内で使用が禁止されている麻薬(narcotic)リストから除外した。これにより、一般家庭でもこれを栽培できるようになり、大麻の栽培・流通・販売網があっというまに構築され巨大な産業が誕生した。

Bangkok Postによるとタイ国内の大麻関連市場の規模は2025年には約430億バーツ(約1700億円)に達すると推計されている。

〔写真:バンコクでは繁華街のいたるところに大麻ショップがある〕

タイ政府が解禁したのは「医療、健康増進目的」での大麻使用であり、タイ保健省も当初から、「生産農家の支援のためであり、娯楽目的の大麻使用を推奨するものではない」とコメントしてきた。しかし現実には購入時に使途を尋ねられないこともあり、娯楽目的の使用は事実上規制されていない。バンコクの繁華街ではいたるところに大麻ショップが出現し、解禁翌年の1月にはタイ全土で7700店の大麻ショップが登録されたという。

なお、米国ではネバダ州が2016年に21歳以上の成人に対する成人用大麻の購入、所持、消費が合法化されている。2024年4月のネバダ州の大麻製品の総売上は6,050万ドル(約95億1438万円)だ

った。

タイの大麻ショップでは、乾燥大麻にはじまり、大麻入りの様々な食品(クッキーなど)、化粧品などが売られている。飲食店でも大麻入りのメニューが提供されている。大麻草成分の一つの天然物質CBD(カンナビジオール)を配合した製品の場合、心身のリラックス効果はあるが、ハイになるなどの精神活性作用はない。ただし、たばこの喫煙と同様に公共の場所での大麻使用は違法とされている。

〔写真:吸引用の乾燥大麻はもちろんのこと大麻入り食品や化粧品も販売されている〕

タイ政府が大麻を解禁した本当の意図は計り知れないが、観光産業にとって追い風になったことは間違いない。日本の外務省も2022年7月に日本人に向けて「安易に大麻に手を出さないように」と注意喚起を行っている。

象徴的なのが、かつてバックパッカー向けの安宿街として知られていたカオサン通りだ。カオサン通りは、5年前にはすでに外国人ツーリスト向けのカフェやレストランが立ち並ぶ現代的な観光スポットに変貌していたが、娯楽目的の大麻が解禁されると大麻ショップの集積地になった。

カオサン通りの「Plantopia」は、フードコートさながらに、テーブル席を囲むように小さなブティックのような大麻ショップが並んでいる。ショップで買った大麻を中央の座席で吸いながらくつろげるというわけだ。

〔写真:カオサン通りのあるCannabis Complex(大麻製品のショッピングセンター)〕
〔写真:おしゃれな雑貨店のような大麻ショップ〕

ある販売事業者に話を聞くと、「タイ人にせよ外国人にせよ、利用し始めて少し経てば製品の違いがわかるようになる。だから我々は品質で差別化するために、99%以上のオーガニックにこだわり、自社農園を持ち製造を厳密に管理している。安全性と味わいを楽しめることに自信を持っている」と言う。

〔写真:店舗内に”大麻工場”を設けて自家栽培をアピールしているバーもある〕

しかし今年1月にタイ保険省は「大麻および大麻関連製品は医療及び健康目的のみに限定され、違反者には高額の罰金もしくは懲役刑が科される」とする法案の概要を発表した。
そもそも、昨年9月に誕生した連立内閣の中核であるタイ貢献党は、選挙公約に「娯楽目的での大麻使用の禁止」を掲げていたのだ。

スレッタ・タビシン(Srettha Thavisin)首相は保健大臣に、娯楽用大麻を違法薬物に再分類し、「医療・健康目的のみの使用 」を認めるよう要請してきた。ロイター通信によると、これを受けた保健省のソムサック・テプスティン(Somsak Thepsutin)大臣は5月23日、「医療目的および研究目的の大麻の栽培と使用には許可が必要であり、娯楽目的の使用は新しい法律により禁止される」と述べた。

ただし、すでに1万に近い合法的な事業者が事業を行っていることを鑑み、「混乱が起きないよう」にと経過措置を設けることを示唆している。また、その認可プロセスの詳細はまだ検討中だという。