タイの大麻解禁はそもそも、禁止されている「麻薬リスト」から大麻を除外し健康および医療目的の使用を認めたもの。大麻成分が持つ、鎮痛作用、沈静作用、催眠作用、食欲増進作用、抗癌作用、眼圧の緩和、嘔吐の抑制の効果に着目したものであり、娯楽目的の使用を認めたものではない。

だが、繁華街を歩けばいたるところにカジュアルな大麻ショップがあり(これらはれっきとした登録事業者だ)、事実上、「娯楽目的」の使用が黙認されている。前編ではその様子をレポートし、かつ、この状況は長くは続かないだろうと書いた。

乱立している大麻ショップは今後、本来の趣旨に沿った「メディカル」の基準を満たす業態に収束していくはずだ。実は、そのような施設はすでにある。

「JW Wellness Bangkok」は、バンコク中心部の東側のサムットプラカーン(Samut Prakan)の、スワンナプーム国際空港からクルマで約15分に位置するラグジャリーな会員制メディカル&ウェルネス施設。8000平米の敷地に建つ、クラシカルな建築が印象的な施設は延床面積10,000平米。館内は、建物正面から見た印象よりもはるかに広い。

ここはウェルネス施設として10数年の歴史があり、同様のウェルネスセンターが国内各地にオープンするきっかけとなった。都市部におけるセルフケア、マインドフルネス、ホリスティック・ヘルスへの関心の高まりに応えるべく、現在もサービスを拡張しアップデートしている。

〔写真:館内に入ってすぐ左手にあるレセプションは落ち着いた雰囲気〕
〔写真:メディカル&ウェルネスのさまざまなサービスを提供している〕

運営しているのはRedmed MedicalとWelness with Heaven Leafのジョイントベンチャーで、Redmed Medicalが日々のオペレーションを行い、Welness with Heaven Leafがセールス&マーケティングなど事業開発を担っている。

この大きな施設の中に、ラウンジ、レストラン、スパ&各種マッサージ(アロママッサージからスポーツマッサージまで)、フィットネス&スイミングプール、ダンススタジオ、ヨガスタジオ、アンチエイジング療法室、物理療法、マッサージ治療室など100室を備えている。取材に訪れた日には小学生くらいの子どもの姿もあった。

〔写真:このフィットネスルームにはサンドバッグやリングもある〕
〔写真:このスイミングプールの隣には小さな子ども用の浅いプールもある〕
〔写真:医療クリニック「Green Wellness Clinic」〕

多様な施設のひとつが、大麻の合法化以降、大麻由来製品を積極的に使用している医療クリニック「Green Wellness Clinic」だ。ここでは、不安、ストレス障害、痛み、睡眠障害、湿疹や乾癬などの皮膚疾患などさまざまな治療に大麻を活用している。タイでは古くからハーブや薬草を使った治療が行われてきた。大麻もその一種であり、「Green Wellness Clinic」はいわばタイの伝統療法を現代に再現したクリニックだ。

Redmed Medicalの担当者によると、主な来院者は、「化学薬品や西洋医学に代わる、よりオーガニックな治療を必要とする患者」だと言う。

「統的な薬の使用は時間がかかりますが、副作用がなく安全です。伝統医学的な治療は西洋医学的な治療と組み合わせることができます。例えば、湿疹のある人がステロイド入りのクリームを使ったことがあるかもしれませんが、敏感肌のために赤みや炎症を起こすことがよくあります。しかし、CBDクリームを使用することで、よりマイルドに、より優れた効果を発揮し、肌を火傷させることもなく治療医できます」

〔写真:館内のいたるところに飾られている伝統的なレリーフには、大麻を吸う古代の人々の姿が描かれている〕

強いストレスなど精神的な問題を抱えている来院者も多く、医療スタッフとのカウンセリングの後、専用のラウンジで乾燥大麻を吸いながらリラックスしたり同行者と歓談できる。大麻吸引用の広いラウンジにはサウナ、ジャクージも設けられている。

より静かで落ち着いた環境でリラックス状態になりたい人向けには、利用者の間で「瞑想室」と呼ばれている、照度を落とした別のラウンジがある。

〔写真:222号室は大麻吸引のための貸し切りラウンジで、ジャクージやサウナも備わっている。会員制だが日本の代理店を通せば、日本人旅行者も「Green Wellness Clinic」をビジター利用が可能〕

繰り返しになるが、ここは会員制のメディカル&ウェルネス施設で、子ども向けのプログラムもある。そういった施設の中にある大麻クリニック&サロンは、製品の品質にも細心の注意を払っているという点でも、繁華街の大麻販売店や大麻カフェとは一線を画している。過剰吸引や粗悪品の吸引による体調悪化の不安もない。
タイ政府はいま、大麻解禁の本来の趣旨である「医療目的の使用」の状態に正そうと、規制強化を進めようとしている。あるべき姿のひとつが、「Green Wellness Clinic」のような医療クリニックであることは間違いないだろう。

text by Tsuyoshi Tanaka