マカオのカジノ産業部門の第2四半期まで(1月1日から6月30日まで)の総ゲーミング収益(Gross Gaming Revenue , GGR)は前年を41.9%上回るMOP 113,753 million(約2兆773億円)だった。

カジノ産業は回復基調にあるが、2019年同期に対していまだ76%の水準。月ごとの推移をみると6月のGGRは今年最も低かった。

6月のゲーミング収益の低下から「回復は失速したのではないか」との見方もある。この懸念の一因が、マカオのカジノ規制当局DICJの要請による、各カジノ施設が6月にギャンブルを遊ばない客への無料スナック(complimentary drinks and food)の提供廃止。これが報じられたタイミングで、カジノ株が数パーセント下落した。

しかし、少なくとも1ポイント以上が入ったメンバーシップカードを持つカジノ客へのスナック&ドリンクの提供は継続されるので、この措置はカジノ内で〈ギャンブルを遊ばない客〉を遠ざけるに過ぎず、業績悪化へのインパクトは少ないと考えられる。また、COVID-19パンデミック前でも例年6月は、上半期の中では収益が低い傾向がある月だった。

〔図〕VIPバカラ収益は、ジャンケット事業者を規制する法律が強化されたことで激減。その一方でVIP顧客のプレミアムマスへの移行が進んでいる。顧客が、ジャンケット事業者が運営するVIPルームからカジノ事業者のカジノフロアに移動することで、カジノ事業者の利益率は向上する。

マカオのゲーミング収益が2019年の水準に戻らない大きな要因は、ジャンケットオペレーター規制によるビジネス構造の変化と、中国の景気の弱さ(消費の弱さ)にあると思われる。

春節(1月から2月)との国慶節(10月)に次ぐ旅行シーズンである今年5月の連休(労働節休暇)の中国国内旅行者数は2019年を上回ったものの、近場での旅行が主流で、1人当たり消費額は昨年から横ばいで、コロナ前の9割弱にとどまった。また、同休暇の出入国者数はコロナ前の8割と海外旅行は低調。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MUFG)のレポート「中国景気概況」は5月の旅行消費について、「人々の節約志向が続く」「人々の消費実態は国内旅行の回復から推察されるよりも弱い」としている。

text by Tsuyoshi Tanaka